ならず者航海記・幻想の冒険者達/©渡来亜輝彦2003
 
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 6、石版の謎
 気がつくとそこは妙な場所だった。薄暗いが全くの暗闇ではない。周りは大理石で飾られていてまるで宮殿のようだった。ライーザは身を起こした。思い切り高いところから落下した気がしたのに、どこも痛いところはなかった。ライーザはスカートのほこりを払って立ち上がる。
「よう。お目覚めか?お姫様。」
いきなりの背後からの声にギクッとして振り向いた。
「あ・・・あなたっ・・・!」
 ライーザの表情には警戒心がにじみ出ていた。フォーダートはライーザのまなざしを受けながら多少困惑したような笑みを浮かべていた。
「小僧を捜しても無駄だぜ。」
「え?」
驚くライーザに逆十字は困った笑みを浮かべた。
「勘違いするなよ。死んだとかそう言う悪い意味じゃねえんだ。あの大穴に飛び込んだときに全員バラバラの場所に落っこちちまっただけさ。たまたまオレとお嬢さんが近くに居たんだ。」
「それって・・・?」
「しばらくオレと一緒に居なきゃならねえって事だな。」
 ライーザはキッと彼を睨み付けた。フォーダートは苦笑いを浮かべ、茶色の髪の毛を右手でかきあげた。
「まあ、いいよ。オレは別にお嬢さんに何しようってわけじゃねえが、あんたの味方でもないんだからな。警戒は解かねえ方がいいだろうさ。オレは少なくとも善人じゃねえからな。」
 フォーダートはそう言ってカンテラに灯をいれなおす。
「だがここに来た以上、一定の協力は必要なんだぜ。そこだけは覚えといてくれよ。」
 ライーザはこの恐ろしい男の後ろ姿を眺めながら、この人は本当はどんな人なのだろう・・・と考えた。時折見せる冷酷な目と普段の雰囲気・・・。相反する二つの要素がこの目の前の人間の中で同居している。
 ・・・よくわからない。
「ねえ・・・一つ聞いてもいいかしら・・・?」
 フォーダートは振り向いた。ライーザは顔を上げて聞いた。
「あなた・・・どうして地図がほしいの?お金のため?それともあたし達みたいに興味本位?それとも権力が欲しいの?」
フォーダートは自嘲的な表情になった。彼は鼻先で笑った。
「はっ。オレは金にも権力にも興味はねえよ。そりゃあ、全くないと言ったら嘘になるがね。あったらこんなまどろっこしい方法なんざ使わねえさ。大体・・・その地図を隠したのはオレだからな・・・。」
 ライーザは驚いてフォーダートを見つめた。
「あ・・・あなたがこの地図を隠したの?」
「ああ・・。オレは八年前縛り首になった奴からアレを譲り受けたんだよ。そう、あれは寒い夜だった。オレはあの日、ドジを踏んで一晩ブタ箱にぶちこまれたんだ。その時、死刑直前の野郎が居たんだ。」
 フォーダートの顔には一種の苦しげな表情が浮かんでいた。その意味が彼女には分かることはなかったが、彼がその思い出を忌々しい物としているのは彼女にもわかった。しかし、どういうわけかフォーダートはその話を続けた。彼の瞳はどこか遠くを見ているようだった。
「奴は・・オレにアレを渡していった。『この地図に記されている宝の中には恐ろしい兵器がある。何千年も前、この大地を焦土に追いやった魔の兵器さえここに記されているんだ。』とな。」
「あなたは・・・それを受け取ったの?」
「ああ。本当は関わりたくなんか無かったけどな・・・。仕方ねえだろう?野郎が死んじまったら、地図が好ましくねえ野郎の手に渡るのが目に見えていたんだ・・・。オレは世界が誰のものになろうがそんなことはどうだっていい。あちこちで戦乱が起きようがどこの国が滅ぼうが・・・そんなことに興味はない。だがな、世界が滅んじまうのはごめんだ。オレはまだ死にたくなんかねえからな。それだけのことだ。」
「でも・・あなたここに入ったんでしょ?あなたはあの石像の仕掛けを知っていた。」
 フォーダートは、目をそらした。
「べ・・・別にそう言うわけじゃない。オレは・・奴から聞いただけだ。」
「あなた嘘が下手ね。あんな暗闇の中でどうしてあの仕掛けを迷うことなく動かせたの?説明してよ。」
逆十字は詰まった。応えようが無かったのである。その彼にライーザはさらに追い打ちをかけた。
「気付いたんだけど・・・この日記・・・」
ライーザが例の日記をリュックから取り出した。フォーダートがギクッとした表情をする。
「この筆跡・・・どこかで見たことがあったの・・・。あなたの筆跡ね?この前くれたメモの字と同じだもの。あなたの字にはクセがあるし・・。」
フォーダートはやや青ざめた顔で黙り込んだ。彼の狼狽はもはや隠しようがなかった。逆十字は明らかに何かを隠している。ライーザはさらに追求した。
「どうして、あなたの日記がここにあったの?」
ライーザの追求にフォーダートは、顔をそむけるようにして一言だけポツリと言った。
「いいだろう・・・そんなこと・・・どうでも。」
「でも・・・、ちゃんと言ってもらわないといけないわ。あなたは、なぜアレにこだわるの?」
「それは・・・」
いいかけてフォーダートは詰まる。ライーザは続けた。
「あなた・・・本当は誰なの!?本当は・・・・」
「オレは何も知らねえ!」
 いいかけたライーザの言葉をフォーダートが大声で遮った。ライーザははじかれたように口を閉じた。サーペントや他の海賊達を一睨みで黙らせてきたフォーダートには、言葉では言い尽くせないような妙に逆らいがたい雰囲気があり、彼の言葉には妙な拘束力があった。それは、人を怯えさせるのには充分足りるものだった。
 ライーザは、珍しく少し怯えていた。フォーダートの青い瞳は、憎悪に似た怒りをたたえて静かに彼女に向けられている。触れてはいけないものに触れたような気がして、出来れば今すぐここから逃げ出したいような気持ちだった。
 我に返ったフォーダートは、ライーザが怯えているのに気付き、慌てて弁解した。つい感情的になたとはいえ、彼女を脅すつもりも何もなかった。
「わ・・・悪かった。つい・・その・・カッとなっちまったんだ・・。許してくれよ。」
「ううん・・・あたしこそ。誰にでも聞かれたくないことはあるわよね。ごめんなさい。妙なこと訊いちゃったわね。」
ライーザが素直に謝るとフォーダートは、困ったような表情をして頭をかいた。彼女に謝られる立場に無いとでも考えていたのだろうか。その表情は先程の彼とは、まるで別人のように優しげで、見ようによっては情けなく見えるほどだった。
「いや・・・そんなことは・・・。・・ごめんな。」
フォーダートはつぶやき、空気を変えようとしてかこほんと咳払いをした。 
「じゃ・・・じゃあ、先に進むか・・。」
 
 バシャーン
いきなり水につっこんだ。アルザスは思わずどちらが上か下かわからず、溺れそうになっていた。そこに光など無いのである。だが、運良くアルザスはもがいている内に水面に顔を出せた。
「ぷはあっ。な、何だよここっ・・。」
幸い泳げるアルザスは平泳ぎをして岸をさがした。おそらくここは地底湖なのであろう。水は恐ろしく冷たいから早く岸に上がりたかった。あたりは真っ暗闇で文字通り一寸先も見えなかった。
「おーい、ライーザ!博士!」
声を立てるのは危険かもしれないが、立てないでこのままいてもいずれ溺れ死にしそうなので仲間を捜した方がいいと思ったのである。しかし、そう簡単に返事は戻ってこなかった。
「畜生!寒いな・・・。オレ、寒中水泳大ッ嫌いなんだぞ!」
アルザスはヤケ気味にそういうと、スピードを速めた。そこに行き着くか知らないが、突き当たりに行けば休めるかもしれない。安直な考えだが、今のアルザスに選択の余地は無かった。
「あたっ!」
 突然何かにしたたか頭をぶつけ、アルザスは頭を押さえながら立ち泳ぎするという非常に器用な事をするしかなかった。痛みがおさまってからアルザスはぶつかった物体を調べてみようと思った。手を伸ばしてみるとどうやら石の建造物らしい。階段状になっているのだと気付いたアルザスは思い切って石に手を伸ばし片足をかけた。とにかく冷たい水から一刻も早く抜け出したかったのである。
「た、助かった。あれ以上、つかってたら凍っちまうぜ。」
 アルザスはジャケットを脱いで絞り、それを振って水気を取るとまたそれを着る。無いよりは暖かいんでは無いだろうかという考えである。寒いのはこの際我慢しよう。そしてポケットの中から防水の袋の中からマッチをとりだし、リュックの中から油を取り出し、石の上に油を垂らして火をつけた。そこだけが明るくなる。
「カンテラはねえし・・・暗いな・・ここ。」
 アルザスはどうやら他の面々とはぐれてしまったんだなと悟った。
「オレにあるのはこの問題の地図だけか・・。ライーザに渡しとけば良かったぜ。あーあ、きっとびしょびしょになったろうなあ。」
アルザスはジャケットの内ポケットから地図を取り出した。そして、妙なことに気付く。
「あれ・・・?この地図・・濡れてないぞ・・・。」
地図を広げて、裏返したり引っ張ったりしたが水に濡れているような様子は全くない。
「変だな・・・。この地図。」
アルザスは首を傾げ、再び濡れた革袋に入れて内ポケット中に丁重になおしこんだ。くしゃみを一つ盛大にやって、幸い持っていたろうそくを燭台に入れてカンテラの代わりにした。真っ暗闇の中、光はないよりはまし・・・という程度で周りの様子はよくわからない。
 足に何かつまずくモノがあった。そっと光を近づけてみる。石版だ。トレイック文字が刻みつけられていたが、アルザスには読めない。何かの図ともじが書かれているようである。
「オレじゃ読めねえよな。博士がいれば・・・」
アルザスは言って、思いついたように鉛筆と手帳を出した。たまたま余り濡れていなかった紙にアルザスはその字の形を簡単に写しておいた。あとで博士に見せれば何かわかるかもしれない。
 アルザスは、また歩き出した。濡れた服や靴は肌にくっついて気持ちのいい物ではない。おまけにこんな地下の気温の低いところでは寒いだけだった。だが、脱ぐわけにもいかない。そのまま二、三メートル突き進むとすぐに行き止まりになった。三十センチ程の石段の下は、もう黒い水が広がっている。ようやくアルザスはここが五メートル四方の小さな人工の小島だとわかった。そして、ここにあるモノは、さっきの石版だけである。
「もう一度寒中水泳か?畜生。」
 アルザスはその場に座り込んだ。当てもなく泳ぎ回るのも至難の業だが、このままここにぼんやり居ても何の解決にもならない。自分がどこからここに来たのかもわからない。とにかく、暗すぎる。さすがのアルザスもぐったりしてしまった。しかし、ここでどれだけぼんやりしていても時間の無駄である。アルザスはとりあえず前向きに考えることにした。リュックの中から湿った乾パンとさかなの缶詰と缶切りを取り出し、乾パンをかじりながら缶のふたを切る。こういう時は何か食べている方が良い考えが浮かぼうというものだ。それにさっきから緊張の連続でもう昼過ぎだということを忘れていた。育ち盛りのアルザスはとにかく空腹だったのである。
「しかし・・・どうして他の連中は居ないんだ?」
 ここに来てアルザスは初めて冷静に考え始めた。湿った乾パンを口の中に放り込みながらアルザスは首をひねった。
「急に地面が無くなったんだったよな。何だか落とし穴のトラップにはまったみたいだった。」
一つ、一つ口に出してみた。自分自身で確認したかったのである。
「でも・・、確かあの時急に・・そう!石像から光が出て女神の石像に当たってたよな。」
そのからくりは今となっては解けなかった。ヨーゼフは何もしていない。だとすればライーザが何かしたのかもしれないし、はたまた逆十字がやったのかもしれない。他の誰かかもしれない。何しろあの訳の分からない連中も居たのだから・・・・
「やっぱり・・あのおっさんかな。」
 それでもアルザスはあの男が何かやったのではないかと思う。どうもあのフォーダートは何かを隠しているような気がする。これは直感に過ぎないが、どういうわけかアルザスは逆十字のフォーダートがこの地図の事件に深く関与しているという気がしたのだ。
「もしかして地図か?」
 アルザスは一つの仮説を導き出した。それはちょうど缶切りが缶をほぼ一周してふたを開けられるようになったときだった。アルザスは味付けされた缶の中のさかなをつまんで口に入れた。さかなを味わいながら再び考える。その仮説はどう考えても非科学的なもので誰かに言えば馬鹿にされかねないものだったのでもう一度よく考えようとした。しかし、結局、それが当たりである気がした。
地図を持っている人間だけが・・・この空間に来ることが出来る。」
 アルザスは自分の中で出た答えを口に出してみた。
「まるで魔法だぜ・・・。」
自分でもあきれたが、それ以外の答えは思いつかなかった。しかし、よく考えればこの地図だって充分謎だ。水に浸けてしまったのにさっきしめりもしていなかったのだから。
「やっぱり魔法だ。そう言うことにしよう。」
アルザスは科学者ではないのであっさりと納得しておくことにした。それがどんな原理かはこんな状況下で彼が考えることではない。
「・・・ってことは地図を持っているものだけが抜けられる道があるんだな。きっと。」
 アルザスは急に軽い気分になった。そう考えてみるとさっきの石版に何かヒントがあるかもしれない。最後のさかなを口にほおばり、アルザスは写したトレイック文字をもう一度眺めた。
「何だろうな・・・オレもこのナンとか文字を習っておけば良かった。」
そう言ってアルザスはもう一度石版のもとに向かった。写しを眺めるより石版を眺めた方が当然いいし、何か思い浮かぶかもしれない。もう一度眺める。
「えーと・・・ここがこうなって・・・

 
 
                          あれ!これ・・・矢印か? 」
そう冷静になって考えれば矢印だ。アルザスは異星人からのメッセージを読み解く人のような気分になっていた。一つ一つ解いて行けば何とかなりそうな気もしないではない。そう、古代人だって同じ人間だ。
「よし・・・これが矢印だとして・・・詰まるところ、この×印まで行けばいいのかな。てことはこの矢印のもとはひょっとしてこの小島かもな・・・。あ・・そうか!」
 ようやく腑におちた。アルザスはにんまりと笑った。
「わかったぞ!この下の方の四角形がオレの今いる島だ。何だか下の方にある何か書いてある奴は地図だな。今までの経緯からみても間違いねえや!多分真ん中のは石版だし・・・これに地図をかざすか何かするんだな・・・。すると先になかった飛び石が現れてそれを飛んで向こうに行けば・・・!」
アルザスはぱちんと指を鳴らし、笑った。思わず勝利の雄叫びが彼の口をついて出た。
「ぃやったあ!」
 
 フォーダートとライーザは迷宮のような通路を静かに進んでいた。フォーダートはすでに拳銃を抜いている。さすがに引き金に手をかけるようなことはしないが、臨戦態勢だった。ライーザは最初、彼が自分を脅しているのかもしれないと思っていたが、それは考え過ぎだったようだ。フォーダートの警戒は前か、それとも後ろから来る敵に向けられていたのである。
「ねえ・・・さっきのあの人達・・・何者か知ってるの?」
 ライーザが小声で尋ねた。フォーダートはちらりと彼女に視線を送った。
「デライン帝国って知ってるだろ?」
「ええ。」
「そこのレッダーって大佐の部隊のえり抜きのエリート兵士・・らしいぜ。ま、もっとも奴らはこういう怪しい洞窟に入ったことはねえらしいから、出し抜こうと思えば出来ねえ事じゃねえよ。奴らは戦いのプロだが、オレは逃げのプロなんでね。」
彼はいたずらっぽく笑った。
「でも・・どうして?」
「サーペントが軍部とつながってやがったんだよ。だからお前さん達も危ないぜ?これからどこの何者がお前さん達から地図を奪おうと画策し始めるかわからねえ。お遊びならここいらでリタイアしておいた方が身のためだ。」 
 フォーダートの口調が一瞬厳しくなった。
「お遊び・・・かもしれないけど・・あたし達はこのくらいで諦めないわよ。」
ライーザはフォーダートに言い返した。ライーザもこのトレイックの財宝が何なのか、何が出てくるのか・・心底見たいものだと思いだしてきていたのである。それがこの目の前の男が言ったように恐ろしい武器だったとしても真偽ぐらい確かめたかった。ここまで苦労して得たチャンスを逃したくない。
 フォーダートは仕方がないというような表情で肩をすくめた。
「オレは忠告したぜ。・・もう止めねえよ。勝手にしな。」
「うけとったわ・・・。」
 ライーザは応えてため息をついた。フォーダートの性格が未だにつかめない。なのに、どうも憎む気にはなれなかった。善人ではないとは思う。なのに悪人とも思い切ることが出来ない。
(この人は、一体どんな人なんだろう。)
 ライーザは何となくこのフォーダートという人間のことをもう少し良く知りたいと思った。何か、こうして悪人ぶっているのにも深い事情があるのではないかと思えた。
 ライーザののんきとも言える思いとは裏腹に逆十字の方は何か神経質になっていた。ここの空気は嫌いだった。いらだっているのはそのせいかもしれない。出来ればここには二度と来たくなどなかった。だが、『責任』を放り出すわけにもいかなかった。何かに導かれるかのように・・・彼は結局ここに戻ってきてしまった。
 まるで、ふるい落とすことの出来ない亡霊に取り憑かれているようだった。そう、過去の亡霊に。
(冗談じゃねえ!何が過去だ!)
 フォーダートは、心の中で吐き捨てた。それに引きずられている自分にも腹が立った。このまま、こんな迷宮なんて吹っ飛ばしてやりたかった。
(冷静になれ!)
彼は奥歯を強い力で噛みしめた。無理に鬱陶しい思いを押し殺す。後ろの何も知らない少女がいることを考えた。こんな少女を巻き込みたくなかった。それにあの少年も。
 だが、巻き込んでしまった責任が自分にあることを、彼は知っていた。だからこそ、冷静にならねばならなかった。狙撃されたときに自分だけでなく少女を守るには、冷静さが必要だ。フォーダートは、思いをうち消すと全神経を周りに集中した。
 ふと、足を止める。うしろのライーザを手で止まるように制止させて、彼は壁にぴったりと背をつけた。微かな足音と気配がした。しかも、集団。最悪の出会いだった。
「・・・冗談じゃねえや・・・。」
 フォーダートは誰にも聞こえないような小声で呟いた。ライーザにカンテラを渡し、ささやきかけた。
「灯を消せ。」
「え・・・あ、はい。」
ライーザは言われたまま、カンテラの灯を消した。
 フォーダートは、そのまま「待ってろ」と一言だけ言い残し、隠れていた壁から飛び出して、連中めがけて出し抜けに発砲した。遠くでぎゃあっと言う悲鳴が上がった。瞬く間にたいまつが曲がり角を赤く染め、兵士の一人が右足を押さえてうめいているのがみえた。傷はそう深くないだろうが、フォーダートはそれを確認せずにライーザを横抱きにして走っていた。どうせ、こけおどしの発砲同然で、はじめから殺す気などない。
「先手必勝!」
フォーダートはライーザに向けてニヤリと笑いかけた。心の中の苛立ちは相変わらず存在していたが、逃亡中にそんなことを気にしているほど、彼は繊細でも愚かでもなかった。全ては逃げ切らなければ意味がない。
 
 
 
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